肥満はハゲになる

糖質制限を実践している私は、メインの肉料理のほかに、サラダとスープが食べ放題となっているファミリーレストランでよくランチをします。

以前、そのレストランでランチをしていると、目の前のテーブルに、チビ、ハゲ、デブの三拍子そろった男性が座りました。(ここでは、わかりやすくするために、薄毛をときに「ハゲ」と呼んだり、肥満を「デブ」といっているところがありますが、決して差別的に用いているわけではないことをご理解いただければ幸いです)

最初は何気なく目が向いただけなのですが、たちまち私は彼の行動に釘づけになりました。

男性は、メインを注文するなり立ち上がり、大盛りサラダを3皿も続けざまに机に置きました。1皿はトマトだけ、2皿目はポテトサラダ、3皿目はホウレンソウをそれぞれお皿からこぼれ落ちそうなほど盛りつけてきたのです。

「さあ、食べ始めるのかな」と思う間もなく、男性は再び立ち上がりました。今度はスープをとりに行ったのです。食べ放題のスープは3種類、彼はすべての種類のスープを満足気にテーブルに並べました。

そこにメインのステーキが運ばれてきました。男性は巨大なステーキをあっという間に平らげました。次に、右から順番にサラダとスープをきれいに完食。私は呆気にとられつつも、「あれだけ食べれば、さぞ苦しいだろう」と思いました。ところが、食後の彼は、顔からタラタラ流れ落ちる汗を無造作に拭いながら、幸福感に満ちた表情をしていました。

私は男性の食べっぷりに隠された背景を想像せずにはいられませんでした。彼は、毎日仕事が忙しく、帰宅しても待っている家族もなく、1人で寂しいのでしょう。たまのランチも彼女も同僚も同席してくれる人はなく、日頃のストレスをひたすら食べることで解消しているように見えました。

そうやってストレス食いをすることで、彼の脳はひとときの開放感と幸福感に満足しているのでしょう。しかし、それによって彼の頭の毛はますます薄くなるはずです。彼の腸内環境は、間違いなくフィルミクテス門が優勢で、バクテロイデス門の細菌はすみに追いやられていることは、彼の外見と食べ方に表れています。

こんな研究があります。2006年、ワシントン大学のJ・ゴードン教授は太ったマウスから採取した腸内細菌を別のマウスに植えつけた場合と、通常の体型のマウスから採取した腸内細菌を植えつけた場合を比較しました。両者は同じ量のエサを食べていたにもかかわらず、肥満のマウスから腸内細菌をもらったマウスのほうは太りやすいことが示されました。

「食事に気を配っているはずなのに、ぜんぜんやせない」「ちょっと食べただけで太ってしまう」と思っている人は多いでしょう。そうした人の腸内ではフィルミクテス門の細菌が優勢になっているはずです。

フィルミクテス門の細菌は「デブ菌」とも呼ばれています。大を肥満に導く菌だから「デブ菌」です。かわいらしい愛称ですが、実はデブ菌に腸をのっとられることは怖いことなのです。

最近、アフリカの原住民と典型的な都市生活をしているイタリア在住の、それぞれ健康な子どもの腸内細菌叢を比べた研究結果が報告されました。

アフリカ原住民の子どもは、高食物繊維・低カロリー食で育っています。そんな子どもの腸内細菌叢では、バクテロイデス門の細菌が優勢でした。しかも、細菌の種類と数が多く、善玉菌が優位の腸内細菌叢が形成されていました。

一方、低食物繊維高カロリーで育ったイタリアの子どもは、フィルミクテス門の細菌が優勢でした。

食事が腸内細菌叢の勢力図を書きかえ、体質や体型を塗りかえていくのです。従来の栄養学的な考え方では、エネルギー摂取量の違いが人の体型をつくるとされています。しかし、それでは説明できないことが多々あります。エネルギー摂取量を控えていてもなかなかやせない人や、ちょっと食べるとすぐに太ってしまう人のいることがその一例です。

フィルミクテス門の細菌は、糖類を代謝する遺伝子の多い菌種が目立ちます。簡単にいえば、宿主が食べたものからエネルギーを強く取り立てて腸から吸収させる働きがあるのです。つまり、フィルミクテス門が優勢になると、わずかな食べ物からもたくさんのエネルギーをつくり出せる体になるわけです。消費されなかったエネルギーは脂肪細胞に蓄えられ、それによって肥満の体がっくられていきます。

肥満は薄毛要因の一つです。ハゲを改善するには食事こそ大事なのです。